
先日、映画『TENET テネット』が公開されましたね。
この映画の監督を務めたのはクリストファー・ノーラン監督で、彼の作品としては『インセプション』や『インターステラー』が有名です。
私自身クリストファーノーラン監督の作品が好きで上記2作品を視聴したことがあったのですが、内容が複雑でとても理解しづらいですよね。
『インセプション』は「夢の中の夢の中の夢」で物語が展開されますし、『インターステラー』では「時間と空間を自由に操作できる五次元空間」が話の根底に存在しています。
そして、今回の『テネット』も例に漏れず、相当理解が難しい内容になっています。
というよりもむしろ、『インセプション』や『インターステラー』よりもさらに難しい作品だと個人的には感じました。
ただ、内容が複雑である分、理解できる部分が増えるとより作品の面白さに気付くことができ、2回目以降の視聴をさらに楽しむことができるようになると思います。
そこで、今回は「普通に見ていたら特に深くは考えない部分」に焦点を当てて、作品への理解を深めていこうかと思います。
この記事を読み終わった時に、「もう一度見たい!」と思って頂けると幸いです。
本記事はネタバレを多分に含んでいますので、視聴前の方は先に本編を見ることをおすすめします。
目次
テネット:あらすじ

内容を忘れてしまったという方もいると思うので、まずは軽くあらすじを整理してみたいと思います。
①未来の主人公(TENETのリーダー)が部下のニールを数年前の過去に送る。
ーーーーーここから映画の中の物語は始まるーーーーー
②敵対勢力(セイター)は人類(生物)滅亡を目論んでおり、未来から来たニールと主人公(この主人公はまだタイムトラベルしていない)はこれを阻止するために奮闘する。
③セイター達は過去にタイムトラベルする技術(回転ドア)を持っているため、主人公サイドの作戦は全て相手に筒抜けであり、勝ち目がない。
そのため、主人公サイドも回転ドアを使ってタイムトラベル(映画の中では「時間の逆行」と表現される)することでセイターに太刀打ちしようとする。
④タイムトラベルが功を奏して、セイターの危険な目論見は失敗に終わる。
ーーーーーここで映画の中の物語は終わるーーーーー
⑤数年後、主人公はTENETという組織のリーダーになり、ニールを部下として雇う。
過去のセイター達を倒すためにニールを数年前の過去に送る。
以下②~⑤の繰り返し
時間の流れが逆行したり、順行したりする世界観がこの作品の理解を難しくしている原因の一つだとは思います。
しかし、それ以上に必要最低限の描写しかされていないため、自分の頭の中でストーリーを補完しなければならない点もこの作品の不可解さを高めている一因だと思います。
さらに、作中では「無知は最大の武器」という言葉がしばしば使われており、視聴者が「何故?」と思ったことに対して、ニールやプリヤが「知らない方が良い」というスタンスを取ってくる点も厄介だと感じました。
考察:回転ドアとアルゴリズム

あらすじの大枠を捉えたところで、作品の中で「これどういうこと?」と感じたであろう部分について見ていきたいと思います。
まずは、本作の要ともいえる回転ドアとアルゴリズムの仕組みについて掘り下げていきましょう。
回転ドア
回転ドアは分かりやすく言うとドラえもんに出てくる「タイムマシン」のようなものです。
これを使って過去に遡ることが出来るようになります。
つまりこれで色々な事をやり直すことができます。
例えば、宝くじの当選番号や数年後ヒットする楽曲を過去の自分に教えたり・・・
ただ、この回転ドアは「タイムマシン」と違って少し不便です。
不便な点は以下4点です。
- タイムマシンとは異なり、5分前に戻るなら5分間逆行世界に、3日前に戻るなら3日間逆行世界にいなければならない
- 逆行世界では、自分以外の時間の流れが全て逆なので呼吸ができない。
- 回転ドア通過後、過去の自分と会ってはいけない。
- 未来に戻ることはできない
では、それぞれの特徴についてもう少し掘り下げてみましょう。
逆行世界での時間の経過
ドラえもん達はほとんど時間をかけずに過去に行くことができますが、『テネット』の世界ではそうもいきません。
「5年前のある日」に行くには回転ドアを通過して時間が逆行する世界で「5年間」生活し、「5年間」経過した時点でもう一度回転ドアに入る必要があります。
そして、世界の時間は逆行していますが、自分に流れる時間は順行(そのまま)なので、お腹は空きますし、年もとります。
タイムマシンと比べるとなかなか不便ですよね。
呼吸
回転ドア通過後の逆行世界では呼吸ができません。
この理由として以下の2つが考えられます。
- 逆行世界では酸素の動き方はあらかじめ決まっているため、正常に肺にとりいれることができない
- 逆行世界では自分の体の「内」と「外」で明確な線引きがされており、時間の流れが異なる世界のモノを体内に取り入れることができない
個人的には②の説の方が合理的ではないかと考えます。
というのも、逆行世界でガラスを割ればガラスが割れるからです。
つまり、逆行世界での自分の行動は世界に対して影響を与えます。
人が息を吸えば、酸素もそれに合わせて肺の中に向かって動くと考えられますね。

ただ、②の説が正しいとすると、逆行世界では食事もできないということになりますね。
逆行世界で数か月、数年間と過ごす場合には、食糧も回転ドアを通すことで食料の時間の流れを自分の時間の流れと同じにしておくという方法が考えられます。
あるいは、逆行世界でお腹が空いたら、一旦、順行世界に戻りお腹が一杯になるまで食べて、また逆行の世界に戻るという方法もあるでしょう。
いずれにしても、戻りたい過去が遠ければ遠いほど、そのための準備も大変になってくると言えそうですね。
光や音なども体の「外」のものなので、作中で言われていた「視覚や聴覚が歪む」というのもそういう意味になります。
また、②の仮説が正しかった場合、どこからが体の「外側」でどこまでが体の「内側」なのかという新しい問題が生まれますが、そこに関しては「無知は最大の武器」ということで、深くは触れないでおきます。
過去の自分
回転ドア通過後の逆行世界と再度通過した順行世界ではもう一人(厳密にはオリジナルの自分以外の自分が2人います)の自分に会ってはいけないとされています。
仮にこのルールを破った場合「対消滅」するとされています。
ドッペルゲンガーのようなものでしょうかね。
ただ、「会ってはいけない」という表現は少し間違いで、正確には
が正しいかと思います。
というのも、作中で主人公達は過去(未来)の自分に遭遇し、お互いに肉弾戦を繰り広げています
しかし、ここで「対消滅」は起きていません。
これは「会ったら消滅する」ではなく「お互いに相手を自分だと認識したら消滅する」ことが前提にあるからだと考えられます。
ここで重要なのは「お互いに」という部分です。
主人公同士が戦闘した際、未来の主人公は過去の主人公を「自分」だと認識していたでしょうが、未来の主人公はごついガスマスクを着けていたため、過去の主人公は未来の主人公が「自分」だとは認識できていませんでした。

これが倉庫の戦闘シーンで「対消滅」が起きなかった理由だと思います。
過去への一方通行
のび太君はタイムマシンで過去に戻り、ことを済ませれば、あとはタイムマシンにもう一度乗ることで無事未来に戻ることができます。
しかし、『テネット』の世界では未来に帰る手段は存在していません。
そのため、一度回転ドアを通過し、逆行世界で時を過ごし、もう一度回転ドアを通過して順行世界に戻った場合、もう一人の自分と遭遇しないように生活しなければなりません。
さらに、過去の自分が逆行世界に存在している時期には自分以外の自分が同じ世界に2人存在することになります(①逆行する前の自分、②逆行中の自分、③逆行した後の自分)。
自分が増えれば増えるほど「対消滅」のリスクも高まるので、回転ドアを通過するのには細心の注意が必要になりますね。
作中では主人公は回転ドアを4回通過しているので、同じ世界に主人公が最大で5人存在していることになります(最大としているのは時期によって主人公の数が増減するからです)。
主人公の破天荒さには脱帽です。
(ニールは最大で7人居るなんて口が裂けても言えない)
アルゴリズム
作中では「プルトニウム241」とも呼ばれていましたね。
これはいわゆる殺戮兵器で、これを敵の手に渡さないために主人公やニールは奮闘します。
もしアルゴリズムが発動したら、「時間の流れが逆転し、全生物が死ぬ」と語られていました。
「全生物」とされていることから、おそらく生物とそれ以外のものの時間が逆になり、全生物は食事や呼吸をすることが出来なくなるのではないかと考えられます。
先ほど説明した「回転ドア」のデメリットを利用しているのだと思われます。
生物が存在しないとなると、ウイルスや水、空気などしか地球上に残らないのでしょうかね。
非常に「環境に優しい生活」と言えそうですね(誰も生活はしていませんが)。
本編では、このアルゴリズムは未来人によって開発され、現在に送られてきたと語られています。
なぜ未来人はこんな危険なアルゴリズムを現代に送ってきたのか、そのあたりについては次の章で見てみましょう。
考察:未来人の策略

『テネット』の中では、「数百年後の地球は環境問題により人類が住める環境ではなくなった」と語られていました。
そして、未来人は荒廃した地球を元の姿に戻すために、数百年前の人類を滅亡させようとしているとありました。
ここでは、未来人が過去の人類を滅亡させようと考えた過程について少し考察してみようと思います。
どうやって世界を救うか
この章では、便宜上、映画の中の世界を2020年、アルゴリズムを送ってきた世界を2120年として扱います。
2020年の人類を滅亡させるために、アルゴリズムを開発したのか、アルゴリズムがあったから過去の人類を滅亡させようと思ったのか順番は分かりませんが、未来人はまず、2120年の荒廃してしまった世界を変えるためにアルゴリズムを使うことを決めます。
この時未来人の取りうる選択肢は以下の2つだったと思われます。
- 2120年の時間を逆行させ、逆行世界で生活し続ける。
- 100年前の人類を滅亡させ、自然環境を保護する。
①逆行世界で生活する
この選択肢で問題になるのは、逆行世界にいる間の酸素や食料をどうするかということです。
前述したように逆行世界では、自分の体の時間と流れが異なるものは体内に取り込めません。
なので、回転ドアに食料や呼吸用酸素も通過させる必要があるのですが、荒廃した地球ではそもそも通過させる食料が存在しないと考えられそうです。
また、酸素・食料とは別の問題として、「対消滅」のリスクもあります。
自分が死ぬまでの数十年間、果たして逆行前の自分と遭遇しないと言い切れるのでしょうか。
こういった理由から選択肢①は実行不可能と判断され、選択肢②が採用されたのではないかと考えます。
②100年前の人類を滅亡させる
未来人はセイターを利用し、2020年の時間を逆行させることで人類滅亡を図ります。
ここでいう逆行とは、生物とそれ以外の時間の流れを反対向きにするということだと思います。
そうすることで、生物が酸素や食料を自分の体内に取り入れられなくなることが狙いです。
盲点
ただ、仮にこれが上手くいった場合、2120年の世界はどうなるのでしょうか。
『テネット』の世界では、過去に干渉した場合、現在はその影響を受けます。
つまり、自分達の祖先が消えた場合、自分達は存在しないことになります。
しかし、未来人はこの点については深く考えていなかったのか2020年の人類を滅亡させようとします。
さらに、仮に作戦が成功した場合、2020年の人類は消え、2120年の人類も存在しないことになります。
しかし、実際の2120年では未来人はしっかり存在しています。

これが意味するところは、
ということです。
絶対に成功することのない作戦のために未来人やセイターは頑張っていました。ただ、未来人には人類滅亡がかかっていますし、セイターも病で死に瀕していたため、極限状態にあったと推測できます。
そのため、失敗するのは分かっているけど、だからと言って何もしないのもやるせない。
ならば、「ダメ元」で作戦を実行するしかない、といった感じでしょうかね。
(ダメ元で人類滅亡させられるのは嫌ですけどね・・・)
テネットを考察|過去を変も意味がない?未来人は何を考えたのか|まとめ

今回見てきた内容をまとめると以下のようになります。
- 回転ドアは不便なタイムマシン
- アルゴリズム発動→人類滅亡
- 未来人は切羽詰まった状況で正常な判断ができなかった
『テネット』は決定論的な世界が前提になっているので、起きたことしか起きないという作りになっています。
そのため、「過去にタイムトラベルして事実を変えている」ように見える場面もすべて最初からそうなるように決まっていたに過ぎなかったというわけですね。
ストーリーの考察をしてきた手前あれなんですが、個人的に一番印象的だったのは『テネット』の主題歌がとてもかっこよかったということです。
もう一度聞きたくなった方は是非聞いてみてくださいね。
また、体験談が映画化されたことで有名な事故物件すみます芸人の「松原タニシ」さんについてまとめた記事もあるので気になる方はチェックしてみてください。